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カテゴリ:読書( 92 )

去年の暮れ頃からシェイクスピアを全巻読もうと思い立ち、小田島雄志氏
の翻訳本を読んでいます。まだ10冊目、全部で37冊だから1/4です。
極力初期の物から読んでいますが、正直それ程面白くありません。
理由の一つは、訳者小田島氏のダジャレというか親父ギャグの多さで、
特に喜劇は連発されます。原書にも英語での洒落や地口があるので、
それを日本語のギャグに置き換えるのに腐心されているのでしょうし、
解説ではそれを褒めているのですが、どうも私の笑いのセンスとは
合わないようです。これ迄読んだ中では「リチャード3世」と「ヴェニスの
商人」が面白かったです。

「至高の日本ジャズ史」相倉久人著集英社文庫。日本のジャズ批評の
第一人者の著者が戦後~1970年代辺りの日本でのジャズを語った
もので、貴重な記録と言えます。博学且つクールな批評で、私は高校の頃
から一目置いていました。本書は少し自慢話も多く、並の年寄りになった
感も少しあります。日本を離れアメリカで活躍した穐吉敏子等にかなり
冷たい辺り、内弁慶乃至国内偏重でバランスを欠くようにも思います。

「御宿かわせみ・蘭陵王の恋」平岩弓枝著。「御宿かわせみ」シリーズの
最新刊。明治の世になり主人公は神林東吾ではなく、医者になった麻太郎
で、総じて若い世代中心になっていますが、るいやお吉、嘉助も健在です。
まあ、安心して読めますが、江戸の剣豪ではなく明治の医者が主人公では
やや物足りなさが残るようです。
by nakayanh | 2013-04-03 08:46 | 読書
今日は寒い一日でした。3日続きの忘年会を終え、久々に自宅で夕食。
冬至とあってかぼちゃのスープが出て、夜はゆず湯に浸かりました。
これで風邪対策は十分です。

「谷間のゆり」バルザック著:漱石の「それから」を超える「最高の恋愛
小説」、との友人の触れ込みで読みました。若い優秀な政治家フェリッ
クスとモルソーフ伯爵夫人=アンリエットのプラトニックな愛。フェリッ
クスはアラベル侯爵夫人との肉欲に溺れ、嫉妬したアンリエットは悩みで
死に至る。私にはアンリエットの気持ちが理解出来ませんでした。純粋な
愛と言えば聞こえは良いけれど、若いフェリックスには残酷すぎるように
思います。

「すべてのランナーに伝えたいこと」瀬古利彦著(実業之日本社):
かつての名ランナーで現在は陸連理事、マラソン解説でお馴染みの方
です。選手時代、強いことは強いけれど、人の後ろに付いて最後に
スパートして勝つレース運びがあまり好きではありませんでした。
指導者としても確たる実績はなく、解説も正直言って凡庸でつまらない。
でも著書の考え方を知っておく必要はあるだろうと思い、読んだ次第。
自分の選手時代の回顧はなかなか率直で面白かったですが、それ以外は
やはり凡庸な内容でした。「名選手必ずしも名監督ならず」を自覚して
いるようなのに、陸連で指導的立場におり、解説までやるのがよく理解
できません。指導者の才能はないと直ぐに悟って、後は別の人生を切り
開いた君原との違いが鮮明で、私は圧倒的に君原ファンです。

「辰巳屋疑獄」松井今朝子著:久々に松井さんの本を読みました。と
言っても10年位前の本です。大阪の炭問屋で豪商の辰巳屋の相続争い
がテーマで大阪や江戸の奉行所まで巻き込んだ疑獄事件の顛末です。
芝居物でも文明開化ものでもなく、主人公元助を中心に客観的、俯瞰的に
ストーリーを進め、著者には珍しい書き振り、しみじみした佳作です。
江戸時代の大阪に実在した町民による儒学の私塾「懐徳堂」が出てきた
ので親しみが湧きました。
by nakayanh | 2012-12-22 00:42 | 読書
ヘスキス・ピアソン著「コナン・ドイル」平凡社
今年8月翻訳本初版。シャーロック・ホームズは中学から高校にかけて愛読
しました。ホームズの鋭ぃ謎解きも魅力的ですが、何と言ってもおっとり
した性格のワトソン博士との掛合いが楽しく和まされました。作品中では
「踊る人形」の暗号謎解きが一番わくわくしました。
 本書はそのホームズの作者アーサー・C・ドイルの伝記です。医学を学び
開業医の傍ら冒険小説や歴史小説を書き、ホームズ物が当って小説家と
して一本立ちしました。クリケットやラグビー等のスポーツが好きで選手
としても相当な実力、正義感も強く誠実な人物だったようです。後半生は
霊的なものを信じる心霊主義者となり、周囲を戸惑わせたようです。
本書はそんなドイルの生涯を慈しみながらも淡々と偏りなく描いていて、
好感が持てます。数年前に出た本書よりも大作の伝記も半分ほど読み
ましたが、心霊主義者の部分が強調され過ぎていて、本書の方が優れて
いると感じました。

大村しげ著「京暮し」暮しの手帖社
 1999年80歳で亡くなった料理研究家で随筆家の著者の、日々の暮しや
食事、生活の知恵を綴ったエッセイ集です。季節毎に纏められており、
歳時記のようにも使える良い本です。

G.バタイユ著「眼球譚」文庫本
 エロというか猟奇的な内容で20世紀を代表する書だそうで、友人から
教えてもらったものです。無軌道なお坊ちゃま達の破天荒な行動を描いた
内容は確かにえげつないですが、エロの描写力は團鬼六の方が上だし、
猟奇的なことでは現実に起きた尼崎の事件の方が遥かに勝るような気が
しました。大昔読んだ「チャタレイ」や「クロイツェル・ソナタ」程興奮しません
でした。
by nakayanh | 2012-11-06 08:05 | 読書
1年位前「謎解きはディナーの後で」をテレビで見て、北川景子さんを
初めて知りました。珍しく正統派の美人で映画女優と言える美しさにも
拘らず、コミカルな演技で結構気に入りました。その彼女が高田郁さん
という女流作家の「みおつくし料理帖」というテレビ特番に出たので、
じっくり見ました。先週のことです。

時は19世紀初めの江戸時代、大阪生まれの天涯孤独な女料理人澪
(みお)が東京の神田で料理人として成長する姿を描くどらまで、原作の
文庫本は既に7冊出ています。本屋で見たことはあったものの、全く内容
は知りませんでした。テレビのドラマが実に面白く、2,3日前から原作を
読み始めたら止まらず今3巻目です。上手いというか結構泣かされる話が
多く、ハンカチかティッシュ片手に読んでいます。

テレビドラマの方は2時間ほどの単発でしたが、文庫本の1冊目の内容と
略同じでしたので、その後の分をまた番組改編期に続きを是非やって
もらいたいものです。清盛と違ってハイビジョン撮影で実に美しく、場面
展開も早くて、観ていて小気味よい仕上がりでした。

文庫本一冊に4話ずつ入っており、それぞれテーマとなる料理が紹介され、
そのレシピが巻末に示されています。私は最近急に料理にも目覚めてきた
ので、その内レシピを見ながらトライしそうです。物語の文庫とは別に
「みおつくし献立帖」という文庫本があり、それには著者の随筆とと共に
料理のカラー写真も添えられています。料理は全部著者が作ったそうで、
これも驚きです。江戸で料理の出る話と言えば、鬼平や剣客商売の池波
正太郎さんを思い出しますが、食通の池波さんがこのシリーズを読んだら
何と仰ったか聞いてみたい気がします。
by nakayanh | 2012-10-03 21:10 | 読書
「スゥイング・ジャパン」秋尾沙戸子著新潮社
 先日北村英治さんの項でも言及しましたが、素晴らしい本でした。
日系二世で米進駐軍の一員として戦後すぐに来日、通訳等の職務を
遂行する傍ら、日本のジャズマン達にスゥイングやビ・バップを伝授した
ジミー・アラキ氏の評伝です。教えを受けた人は南里文雄、ナベサダ、
北村英治、宮間利之氏ら錚々たる人達です。米国に帰国後ライオネル・
ハンプトンから楽団に請われるほどの実力にも拘らず、学問の道に進み、
幸若舞等中世日本の文化を専門としてハワイ大学で教授となり、日本の
勲4等も受けました。アラキ氏の生涯を丹念に調べ、特に後半はジャズ
ファンとしては堪えられない興味深い読み物になっています。これを契機
にアラキ氏の日本での幻の名盤が復活してくれることを期待します。

「代表的日本人」内村鑑三著岩波文庫 
 友人に勧められて読みました。内村鑑三が100年以上前に英文で書いた
本で、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人が取り上げ
られています。いずれも他の本で読んだりして何となく知っている偉人
ばかりですが、二宮尊徳の偉大さはこの本で初めて知りました。努力、
謙虚、実践の人で、嘗て小学校に必ず銅像があったのも理解できました。

「四文屋」松井今朝子著ハルキ文庫
 松井今朝子の「並木拍子郎」シリーズ第4弾。江戸末期北町奉行所同心の
家に生まれ、息子のいない兄に家督を継ぐよう期待されているが、好きな
歌舞伎の狂言作者の道に未練があり、料理屋の一人娘おあさとの仲も
微妙、それに師匠の並木五瓶夫婦らが織りなす人情味たっぷりの捕り物帖
です。「剣客商売」や「御宿かわせみ」に通じるエンタテインメント時代小説です。

「冥土めぐり」鹿島田真希著河出書房
 最近芥川賞を受けた作品で月刊文春最新号で読みました。文章力はある
と思いますが、どうにも主人公に共感出来ず、面白いく感じませんでした。
虚栄心が強い母親や自堕落な弟から理不尽で不条理な仕打ちを受けている
女性が主人公ですが、理不尽さ・不条理さから逃れる努力をせず、甘んじて
いる姿勢が理解できません。主人公に魅力や何がしかの共感が持てないと
どうも作品自体に興味が持てません。私が単純すぎるのでしょうか。
by nakayanh | 2012-08-28 23:41 | 読書
大越健一「ニュースキャスター」文春新書
 2010年3月からNHKのニュースウオッチ9のキャスターを務めている
方のエッセイ風の新書です。前半は学生時代の野球部のことや、NHK
の政治記者としての来歴、ニュースキャスターとしての思いなど、後半は
キャスターとして番組で言えなかったこと、言い足りなかったことを番組
HPで書いたことからの抜粋です。
 彼に魅かれたのは、前任のキャスターがあまりに上から目線で偉そうに
コメントしていたのに対し、普通の目線でソフト且つ親父ギャグ入りで
コメントしていたからで、いわゆるNHK的でなく、一緒に酒を飲めそうな
親近感を持てたからでした。最近になって東大野球部の投手出身でリーグ
通算8勝27敗と知り、これは只者でないと感じました。東大で8勝したと
いうのは今では考えにくい快挙で、過去東大では5位の記録だそうです。
おそらく最近の投手は4年間で1勝すれば満足するのではないでしょうか。
身長170センチそこそこでも気持ちで投げまくり、大学選抜に選ばれて
全米代表のM.マグワイアと対戦したそうです。後半のコラムは実に真面目
と言うかまともな普通のおじさんの発言で、健全な社会人・家庭人なの
でしょう。特別なオーラは感じませんが、それで十分だと思います。

東海林さだお著、南伸坊編「東海林さだおの味わい方」筑摩書房
 2003年に東海林さだおの食い物エッセイの既刊分からさわりを抜出し、
辞書のようにアイウエオ順に並べたものです。行きつけの図書館で見つけ
是非欲しくなりましたが、新刊はなく、アマゾンで格安で買いました。
品物は良い状態です。面白い読み物の面白いところだけ「良いとこどり」
したのですから項目毎に抱腹絶倒、好みに拠りますが私にとっては名著と
言えます。惜しむらくは03年刊なためその後まだ延々と出ている丸かじり
シリーズがカバーされていないことで、是非続刊を期待したいです。
by nakayanh | 2012-07-13 17:27 | 読書
田尻祐一郎「江戸の思想史」中公新書
 江戸時代の思想家達を幅広く且つ要領よく概観してくれています。
日本の仕組みは応仁の乱の前後で質的に大きく変わっていることを、
内藤湖南や網野善彦が指摘しているそうで、その世俗的な社会の
枠組みが構築された近世・江戸時代の思想家を個別にざっくりと
述べています。個人的に勉強している伊藤仁斎も出てきますが、
この中で一番印象に残ったのは幕末の熊本藩出身の儒家、横井小楠
でした。国家・国益を超える価値としての「天地公共の実利」が重要、
とした小楠の先見性・先進性は現代の日本の狭量な政治家達には
とても及びもつかないものがあるように思いました。

源了圓他編「横井小楠のすべて」新人物往来社。
 上の本に刺激され、図書館で借りて読みました。思想自体は優れた
人だったようですが、酒癖が悪く使いづらかったのか、熊本では全く
登用されず、福井藩松平春嶽からの招聘で同藩の財政再建に尽力
しました。明治2年1月太政官に出仕した帰途暗殺されました。頭が
良く酒の席で酔いに任せて相手に絡み言い負かす悪癖が嫌われた
のでしょう。今のサラリーマンにもよくいるタイプです。

向田邦子「森繁の重役読本」文春文庫
昭和37年3月から44年12月に日曜を除く毎朝5分全2448回放送された、
森繁久彌朗読の連続ラジオエッセイのシナリオです。最近再刊された
のを週刊誌で知り、図書館で1993年の文庫初版を借りて読みました。
向田さんが30代後半頃の作品、森繁さんは今年生誕100年だそうだから
50代でしょう。東宝の「社長シリーズ」は高度成長期の日本企業を扱った
お洒落で知的で抱腹絶倒の喜劇映画で、子供心にも面白かった記憶があり
ます。寅さんも好きですが、あれより知的というか大人っぽいというか、
個人的には日本映画史上最高の喜劇映画シリーズだと思っています。
その映画で社長役を演じるのが森繁さんで、この本はその映画の雰囲気
をよくあらわしたラジオエッセイだと思います。50年前に当時30代後半の
向田さんが脚本を書いているのですから、現実離れしていることや、時代
遅れも多々ありますが、総じて面白く、テレビ脚本家として名を成した
彼女の出世作だけのことはあります。日本橋三越でこの作品も含めた
展覧会が6月半ばまで開かれ、出来れば見に行きたかったのですが、
行けず仕舞いでした。
by nakayanh | 2012-06-30 20:56 | 読書
湯浅邦弘著「論語」中央公論新書。「(論語の)真意を読む」との副題で、
最近発見されている論語の竹簡資料などを基に、論語の謎と真意に迫ると
いうのが本書の主意です。著者は1957年生まれの阪大教授。
期待して読んだのですが、私には期待外れでした。竹簡の発見に拠って
論語の成立や伝播浸透過程が十分明らかになった訳ではなさそうです。
また、述而編で孔子が自らの衰えを嘆く言葉を、名言名句の並ぶ論語中の
唐突な異音、不協和音と捉えている点が、本書執筆の動機ともいえるよう
ですが、これが私には理解できません。孔子は自らを聖人と意識している
訳ではなく、弱みも論語中で十分見せています。その人間臭さが論語の
最大の魅力だし、論語の名言名句が多くの人々に受け入れられる理由だと
思うからです。多くの学者は論語を思想史上の重要資料として研究分析の
対象とするのでしょうが(それが当然の姿勢ではありますが)、私のような
道徳や倫理観の糧として論語を読む者にはそれが興ざめということかも
知れません。

守屋淳編訳現代語訳「渋沢栄一自伝」平凡社新書。
渋沢の「論語講義」を通じてある程度人となりを理解しておりましたが、
改めて「自伝」を読んでみてその凄さに圧倒されました。埼玉の百姓出身
でありながら、尊王攘夷を唱えて挫折、一転して徳川慶喜に仕え、西郷や
近藤勇とも親しく付き合い、慶喜の弟昭武の容認となって洋行し、維新後
大蔵省の役人となるも飽き足らず、独立して様々な会社・事業を起こし、
日本資本主義の父となる一方、論語の精神を尊び、「道徳経済合一」を
説いて、慈善事業にも力を尽くす、正に波乱万丈の人生でした。彼の
最大の武器は交渉説得を得意とする実務の人、という印象でした。
日経「私の履歴書」に出てくる最近の経営者とは人間のスケールが違い
過ぎます。

西川善文「ザ・ラストバンカー」講談社。住友銀行出身、三井住友銀行の
初代頭取で、日本郵政の社長だった方の自伝です。
渋沢栄一と比べるのは気の毒ですが、やはり人間のスケールの違いは
否めません。銀行員として優秀だったのでしょうが、特に図抜けている
とは思えません。調査畑出身で安宅、イトマン等破綻や不良債権処理等
後ろ向き業務のスペシャリストで、バブル崩壊の経済乱世の時代にこそ
有用な人材だったということでしょう。経済人よりなお一層アホな政治家
によって辞任させられましたが、日本郵政社長としての方針は概ね正し
かったと思います。他のお役所同様郵政省の非効率性は、私でさえ
銀行員時代に僅かに関わった業務を通じて感じていたことでした。
郵政民営化がその後どうなったか詳しくは存じませんが、大きく後退した
ことは間違いないでしょう。
by nakayanh | 2012-05-23 15:41 | 読書
池波正太郎「真田太平記」新潮文庫全12巻。2月頃から読み始め、
3か月近く掛かったでしょうか。大好きな池波さんの最高に面白い時代
小説でした。めった感じない、読み終えるのが惜しい類の小説でした。

天正から元和の約40年の激動の時代、武田滅亡から本能寺、関ケ原、
大阪冬夏の陣を経て徳川幕府が安定期に入るまでを、信州上田の真田
昌幸と長男信行、次男幸村を中心に描いてゆきます。関ヶ原の際、真田
勢が秀忠軍を釘付けにし、合戦に間に合わなかったことや、大坂の陣
での幸村や真田十勇士の活躍など、断片的に知ってはいても、真田
親子の素晴らしい活躍の全貌はこの小説で初めて知りました。

幸村に長く仕えた小者の向井佐平次、草の者と言われる忍者達、特に
女忍びのお江、佐平次の子向井佐助ら、更に家康、秀吉らも加わって、
戦国時代の人たちの様々な人生が描かれ興味が尽きません。信行が
昌幸・幸村と別れ家康の東軍に付き、結果的に真田の家は守られるの
ですが、そのための並大抵でない苦労も丹念に描かれています。

特に素晴らしいのは最後の第12巻、大坂夏の陣以降で、池波さんは
多くの登場人物たちの始末を、温かい目で情感豊かに描き切っていて、
見事と言う他ありません。夜中に読んでいて涙が止まりませんでした。
人間をよく知り抜いた池波さんならではの簡潔にして細やかな人情の
世界、その洞察力の深さは「論語」にも匹敵する程ですが、それが
平易で歯切れの良い文章で綴られるのだから堪えられまえん。


今井今朝子「銀座おもかげ草子・3・西南の風」シリーズものの三作目、
読者にはお馴染みの登場人物たちの西南の役の頃の経緯です。
主人公久保田宗八郎の友人市来巡査が西南の役に駆り出される辺りや
宗八郎の内縁の妻比呂の死などが中心です。面白いことは面白いの
ですが、やや話が硬いのと、池波さんと並行して読んだためか人物の
深みがやや物足りないような気もします。池波さんと比べるのは少し
気の毒かも知れません。
by nakayanh | 2012-05-12 15:48 | 読書
道徳教育をすすめる有識者の会・編「13歳からの道徳教科書」
 最近の小中学校の教育事情を詳しく知りませんが、何かで読んだところ
では、最近は「道徳」の授業がないそうです。カリキュラムとしてはある
そうなんですが、先生が教えたがらないんだとか。道理で道徳心も
公徳心も感じられない事件が多発する筈です。道徳の授業があった
我々大人の世代でも、私のようにいい加減な人が多いのですから、
習わなかった若い世代が社会の中心となる今後の日本が猶更心配に
なります。そういう危惧する大人達が作った本がこの本のようです。
中身は至極尤もな話、心温まる話が大半で、中にはここに入れなくても、
という話が僅かにないではないですが、こういう素晴らしい行動をした
人達、素晴らしい出来事や考え方を知るのはとても大切だと思います。
若い人達に是非読んでもらいたい本です。

津村節子「紅梅」
 緻密な取材に基づく歴史小説家で06年に亡くなった吉村昭の夫人で
芥川賞作家の津村節子が、夫の癌発症からの1年半を淡々と綴った
小説です。文中の人物名はすべて仮名ですが、勿論判る人には判るように
書かれています。抑揚を抑えた飾らない文章が、夫婦の人柄をよく表して
心に響きます。この小説や吉村氏自身の随筆を読むと、氏が実にまとも、
且つ平凡実直な、普通の人だったことが良く判ります。やや面白みに
欠けると言っても良い位の健全で善良な市民で、こういう人ばかりだと
きっと良い世の中になるだろうと思われます。氏の基本的な生き方は
他人に迷惑をかけない、自分のことで騒ぎ立てない、極力目立たない、
というようなことのようです。人工的な延命を望まず、死期を悟って自ら
点滴の管をむしり取って絶命した潔さや勇気、決断力、実行力は見事と
いうしかありません。こういう偉大な凡人の生き方に、少しでも近づき
たいものです。
by nakayanh | 2012-05-05 21:57 | 読書