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小泉信三「福沢諭吉」「読書論」

どちらも半世紀以上前に初版の、格調高かった頃の岩波新書です。6月の生誕120年記念小泉信三展で買ったのを、やっと最近読みました。

父親も自身も慶應の塾長で、幼い頃福沢諭吉に直接お世話になった小泉信三程、福沢諭吉について語るのに相応しい人はいなかったでしょう。私は「福沢諭吉」は全12巻の著作集も持っていて、全部ではないもののそこそこ読んでいるのですが、それでも福沢の人となりやその生涯、業績の歴史的価値を、この小さな新書で教わることは多かったです。

福沢諭吉は九州中津藩の下級武士の子として生まれ、幼くして父を亡くし、二十歳を過ぎて勉学に目覚め、咸臨丸等で三度洋行、欧米の知識や制度を独自の鋭い好奇心で観察、探求、習得し、明治以降の日本の近代化の為のアイデアを提供し続けました。下級武士の悲哀を味わった父の無念さを「門閥制度は親の敵でござる」と表現し、生涯官に阿らず、人を育て、「天は自ら人の上に・・」と自由平等、独立自尊を謳いつつも、自らは武士としての矜持を持ち、身を律して生きた鮮やかな生涯でした。

「文明論の概略」の中で、新井白石の「読史余論」を評して、「白石の言う『天下の大勢九変五変』というのは、畢竟ただ同じ治者階級の内部において政権担当者が変わったと云うに過ぎず云々・・」と述べている箇所など、今の政治の混迷をも見通した慧眼のようにも思います。


「読書論」は若い人達の為に、「どんな本を何時、如何に読み、どうやって身に付けるか」を自らの経験を示しながら指南した本で、還暦近くなって読むのが恥ずかしくもありますが、思い当ることが多くあり、又もっと前に読んでおればと悔やまれることも多いです。

本にどんどん線を引いたり書き込んだりするのは私もやっていることで、我が意を得たりとの思いですが、常にメモを取り読後に梗概、覚書を書くというのは、なかなか出来ないことで、見習わなければと思います。ブログに書き込むのはその真似事でもありますが。

他にも、翻訳について、読書と観察、読書と思索、文章論、書斎と読書、著者自身の読書の記憶等々、著者特有の抑制された無駄のない美しい文章で示唆に満ち溢れています。

森鴎外や志賀直哉、水上瀧太郎、久保田万太郎、海外ではトルストイや経済学者のJ.S.ミル、マルクス等著者の愛読書から自身の学問に係る本まで興味深く、氏が「一番面白かった小説」としている「戦争と平和」を早速買い込み、今年の夏休みの課題としました。今まで読んでいないのも恥ずかしい話ですが。
by nakayanh | 2008-08-06 01:00 | 読書