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杉浦日向子「うつくしくやさしくおろかなりー私の惚れた江戸」

2005.7.22に46歳の若さで亡くなった杉浦さんの遺作。20年来の付き合いだった編集者が編纂したものです。長年あちこちに書いた江戸に関するエッセイを纏めたもので、充実した内容です。彼女の江戸に対する愛情と理解は当代随一と言って良く、司馬遼太郎さんは彼女のことを『江戸を再構築している』というような表現で高く評価していました。蕎麦屋酒好きで、自ら隠居生活と称したり、テレビでの悠揚迫らない話し振りからは全く窺えませんでしたが、長年血液の免疫系の難病や癌と戦っての壮絶な死でした。でも彼女の蕎麦屋好き、江戸好きを通した生き方はきっと多くの方の心に残り、江戸の魅力と共に受け継がれていくと思います。

同書の中に素晴らしい一文があります。勝手に引用して良いのかどうか判りませんが、あまりに素敵で心を打つので紹介させてください。

 『近年「江戸ブーム」とやらで、やたら「江戸三百年の知恵に学ぶ」とか「今、江戸のエコロジーが手本」とかいうシンポジウムに担ぎ出される。正直困る。つよく、ゆたかで、かしこい現代人が、封建で未開の江戸に学ぶなんて、ちゃんちゃらおかしい。私に言わせれば、江戸は情夫だ。学んだり手本になるもんじゃない。死なばもろとも惚れる相手なんだ。うつくしく、やさしいだけを見ているのじゃ駄目だ。おろかなりのいとしさを、綺堂本に教わってから、出直して来いと言いたい。
 江戸は手強い。が、惚れたら地獄、だ。』

江戸を心底惚れ抜いている彼女にしか言えない、切なくも美しい心の叫びと感じます。

 
by nakayanh | 2008-01-02 01:17 | 読書