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漱石の「こころ」その2

「彼岸過ぎ迄」の主人公の男女は幼馴染で何でも言い合える仲です。女性は男性のことが好きですが、男性は彼女を結婚相手とは全く思っていません。仕方なく彼女は親の勧めるまま見合いをし、その相手のことを幼馴染の男性に報告します。すると彼はその見合い相手の事を散々けなします。頭に来た彼女はこんなことを言います。「貴方は私を好きでもなく、結婚する気もないくせに、何故私の見合い相手のことを貶すんです。それは貴方の嫉妬です。」うーん、これには参った。夜中に寝転んで読んでいたのが、思わずその場で正座してしまう程の衝撃でした。二十歳過ぎの私には男の嫉妬なんて判りませんでした。でも、そう言われてみると確かにそんな気持ちがあります。好きでもない女性が幸せそうにしていると面白くない感情が、確かに自分の心の奥底にはあります。これが嫉妬なのか。その瞬間私は自分なりに漱石が理解できました。漱石はそういう心の奥深くの感情を抉り出して文章にしているんだ、それを味わえば良いんだ、と。それからは漱石のどれを読んでも面白くなりました。ただ「猫」が心から面白いと思うようになるには更に10年位掛かりましたが。

「彼岸過ぎ迄」のあと、あの面白くなかった「こころ」を読み返してみました。もう私には漱石が判ります。やはり凄い小説でした。「こころ」は一般的には漱石の小説の中で失敗作との評価が定着しているように思います。小説のテクニックとしてはそうなのかも知れませんが、私には判らないしどうでも良いことです。それより内容が凄いのです。

「こころ」の主人公である先生は学生時代、真面目な友人と同じ下宿にいました。二人共下宿のお嬢さんが好きになりましたが、先生は友人から先にそれを打ち明けられてしまいます。先生はそれを言い出せないまま、友人がお嬢さんに恋心を打ち明けないよう色々と画策します。友人には「お前は日頃言っている志と違う、堕落だ。」というような事を言ってなじります。友人はまともに受け止めて思い悩み、ある日下宿の部屋で自殺します。それを先生が見付けます。友人の自殺の第一発見者です。(その3に続きます)
by nakayanh | 2007-08-12 00:33 | 読書