最近の読書から

湯浅邦弘著「論語」中央公論新書。「(論語の)真意を読む」との副題で、
最近発見されている論語の竹簡資料などを基に、論語の謎と真意に迫ると
いうのが本書の主意です。著者は1957年生まれの阪大教授。
期待して読んだのですが、私には期待外れでした。竹簡の発見に拠って
論語の成立や伝播浸透過程が十分明らかになった訳ではなさそうです。
また、述而編で孔子が自らの衰えを嘆く言葉を、名言名句の並ぶ論語中の
唐突な異音、不協和音と捉えている点が、本書執筆の動機ともいえるよう
ですが、これが私には理解できません。孔子は自らを聖人と意識している
訳ではなく、弱みも論語中で十分見せています。その人間臭さが論語の
最大の魅力だし、論語の名言名句が多くの人々に受け入れられる理由だと
思うからです。多くの学者は論語を思想史上の重要資料として研究分析の
対象とするのでしょうが(それが当然の姿勢ではありますが)、私のような
道徳や倫理観の糧として論語を読む者にはそれが興ざめということかも
知れません。

守屋淳編訳現代語訳「渋沢栄一自伝」平凡社新書。
渋沢の「論語講義」を通じてある程度人となりを理解しておりましたが、
改めて「自伝」を読んでみてその凄さに圧倒されました。埼玉の百姓出身
でありながら、尊王攘夷を唱えて挫折、一転して徳川慶喜に仕え、西郷や
近藤勇とも親しく付き合い、慶喜の弟昭武の容認となって洋行し、維新後
大蔵省の役人となるも飽き足らず、独立して様々な会社・事業を起こし、
日本資本主義の父となる一方、論語の精神を尊び、「道徳経済合一」を
説いて、慈善事業にも力を尽くす、正に波乱万丈の人生でした。彼の
最大の武器は交渉説得を得意とする実務の人、という印象でした。
日経「私の履歴書」に出てくる最近の経営者とは人間のスケールが違い
過ぎます。

西川善文「ザ・ラストバンカー」講談社。住友銀行出身、三井住友銀行の
初代頭取で、日本郵政の社長だった方の自伝です。
渋沢栄一と比べるのは気の毒ですが、やはり人間のスケールの違いは
否めません。銀行員として優秀だったのでしょうが、特に図抜けている
とは思えません。調査畑出身で安宅、イトマン等破綻や不良債権処理等
後ろ向き業務のスペシャリストで、バブル崩壊の経済乱世の時代にこそ
有用な人材だったということでしょう。経済人よりなお一層アホな政治家
によって辞任させられましたが、日本郵政社長としての方針は概ね正し
かったと思います。他のお役所同様郵政省の非効率性は、私でさえ
銀行員時代に僅かに関わった業務を通じて感じていたことでした。
郵政民営化がその後どうなったか詳しくは存じませんが、大きく後退した
ことは間違いないでしょう。
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by nakayanh | 2012-05-23 15:41 | 読書