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池波正太郎「銀座日記」新潮文庫

夜眠れない時や、朝早く目が覚め家人が起きるまでの間、池波さんの「食卓の情景」や「散歩の時
何か食べたくなって」を拾い読みしていると余りに面白いので、まだ読んでなかった「銀座日記・全」を買ってきてじっくり通して読みました。著者が60歳(1983)から亡くなる直前の67歳(19
90)まで7年近く、「銀座百点」に寄稿したエッセイ集です。最高に素晴らしい本ですが、楽しい
のは半ば頃までで、後半は切なく悲しい、身につまされるエッセイです。

前半は「60を超えて以前のようにはいかない」と言いながら池波さんは元気そのもの、毎日よく
これだけ飲んで食べられるなと思う位の健啖振り、そして物凄い仕事量の合間に読書と試写室での
映画観賞、銀座などでの買い物、人との付き合いと超忙しい日々です。この生活では当然高血圧や
痛風にもなろうというものです。その無理がたたったのか、後半からどんどん池波さんの体調が
悪くなっていき、それと共に酒量が落ち、外出が億劫になり、食欲が落ちます。体重が落ち、
最後は家の中でやたらと滑って転ぶようになります。それでも池波さんは重病と思っていません。
あるいは判っていても沢山仕事を抱えているため、思い切って入院することが出来なかったのかも
知れません。日記の最後の2行は泣けてきます。「ま、仕方がない。こんなところが順当なの
だろう。ベッドに入り、いま、いちばん食べたいものを考える。考えてもおもい浮かばない。」

あれ程食べることに情熱を燃やし、一食一食が真剣勝負だった池波さんが、最後は食べたいものが
浮かばなくなるとは・・。私は今62歳で、同じ歳の頃池波さんはお元気なのですが、64歳位から
徐々に元気を無くされて行きます。私もそうなるのかと思うと身につまされるようでもあるし、
一方で、池波さん程暴飲暴食はしてないし、運動も十分過ぎるほどやって健康管理は出来ている
とも思います。しかし、私の様な世の中の役に立たない者より、池波さんの様な素晴らしい方が
長生きした方が人類全体の為には遥かにプラスだった訳で、もう少し池波さんの周りの人が気を
配っていれば、と口惜しい気もします。

池波さんは自分自身を怠け者と思っており、だからこそ引き受けた仕事は必ず期日までにやり
遂げることを信条として、段取り良く仕事を進めるのが常でした。その律儀さは生粋の江戸っ子で
職人の血を引いている自負と自覚からも来ていたようです。一生懸命食べることと約束を必ず守る
こと、これが私が池波さんに最も魅かれるところで、是非見習いたいと思っています。
by nakayanh | 2011-07-31 00:40 | 読書