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二代目中村吉右衛門の人間国宝認定

歌舞伎の播磨屋二代目中村吉右衛門が人間国宝に認定されました。今の歌舞伎界を見渡せば、
吉右衛門が最高の立役として先ず異論がないことと思います。しかしながら状況はなかなか複雑で、
吉右衛門も手放しで喜びを表現出来ない様にも思います。

吉右衛門の同世代乃至少し年上、つまり一番脂がのっている立役歌舞伎俳優を見ると、国宝なのは
七代目尾上菊五郎(1942生)だけで、同年齢の実兄松本幸四郎、十二代目市川團十郎(46年生)、
十五代目片岡仁左衛門(44年生)はいずれも人間国宝に指定されておらず、彼らを一気に飛び越えた
ことになります。吉右衛門は紫綬褒章すらまだ受けていませんでした。

菊五郎の後なかなか誰も歌舞伎界から国宝に指定されないのを実は不思議に思っていました。
全くの個人的な想像ですが、菊五郎を国宝にしたのが早過ぎて、その後それ程芸は進化せず、体
ばかりが太ってやや期待外れだったため、その後の認定に慎重になったのではないでしょうか。
幸四郎は現代風な小顔の顔立ちで目も細いため、立役としてはやや線が細く貧相なのが弱点です。
仁左衛門は十分国宝の価値があると思いますが、関西が地盤の為それなりにハンディはあるで
しょうし、何となく人気先行のイメージがあり、頭の固い役人には実力が判らなかったのかなと
思います。團十郎は04年以来の白血病に加え、今回の息子海老蔵の不遜な発言で完全に目がなく
なったと思わざるを得ません。そんな中で、役者として最高の充実期を迎えていて華のある
吉右衛門が選ばれたのは、主観的には当然に思いますが、色んなしがらみや頭の固い役人の
スタンスを考えると、今回の決定は結構英断だったと言えそうです。

私が最初に吉右衛門を凄いなと思ったのは歌舞伎ではなく、20年以上前に聴き始めたNHKの漢詩
紀行という番組でした。俳優の江守徹と吉右衛門が交互に漢詩を朗読するのですが、ケレン味・
芝居っ気たっぷりの江守より、淡々と抑揚のない吉右衛門の朗読の方が遥かに心に沁みるのです。
鬼平で茶の間の人気も得ましたが、それに慢心することなく歌舞伎に精進したのが良かったので
しょうか。若い時から器用で華やかで目立った兄の幸四郎より、不器用で目立たず、陰のある
吉右衛門の方が、歌舞伎役者としては幅が広く存在感があった、と言うのがここ10年の私の印象
です。勿論幸四郎も当代一流の役者ではありますが、弁慶等の荒事より世話物等により力を発揮
するように思います。

さて次はいずれ勘三郎か玉三郎辺りが人間国宝の候補となるでしょうが、年齢的な順序を逆転させ
てでも、仁左衛門こそ国宝になるべき十分な実力があると思います。それより脇役での片岡我當
(仁左衛門の長兄)が先になるべきだとも思います。
by nakayanh | 2011-07-16 21:23 | 歌舞伎