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高橋治「絢爛たる影絵 小津安二郎」

岩波文庫刊です。図書館で単行本を読み始めましたが、中身が充実しているので途中で文庫を
買って読みました。著者は元松竹の映画監督で小津の「東京物語」で助監督を経験したことも
あります。小説家に転じ1984年に直木賞。私は過去に1冊だけ読み、頭は良いのは判るのですが、
それが邪魔をして説明過剰でうんざりした記憶があります。

本書は小津の評伝というかノンフィクションノベルで、小津を知る関係者からの綿密な取材を
元に、著者得意の緻密さで書いていますので、興味深いエピソードがふんだんに盛り込まれて
おり、大の小津映画ファンの私としては手元に置いておきたくなったという訳です。

小津の60年の生涯(60歳還暦の誕生日に死去!)を春・夏・秋に分けて夏の部で白黒の名作で
ある原節子の紀子三部作「晩春、麦秋、東京物語」について書き、秋の部でそれ以降の功成り
名遂げた小津を描きます。名声を得た絶頂で亡くなっているので冬が無いのでしょう。

著者は若い頃同じ映画監督を目指す者として、以前は小津を殆ど評価していなかったのですが、
年と共に見直すようになり、これだけの大作を書くに至ったと思われます。しかし、根底に
「何故東大出で頭の良い自分より小津の作品の方が評価されるのだろう。」という納得できない
思いが感じられ、不承不承認めている、という印象が強く感じられます。

その典型が、小津晩年のカラー三部作「彼岸花、秋日和、秋刀魚の味」について「小津の脚本で、
二度と読み直す気にならないものは『彼岸花』、『秋日和』」と書き、この三部作については
殆ど言及していない点です。私からすると本当に小津の良さが判っているのかな、と疑問に
思えます。

この三部作こそ、「晩春、麦秋、東京物語」で確立した小津映画の集大成というか、より洗練
され、遊びやゆとり、粋が感じられる大人の映画で、何度見ても見飽きない名人芸なのですが。
これらをマンネリと評する人は多分志ん生の何とも言えない可笑しみも理解できないのでは
ないでしょうか。頭が良すぎて理詰めで納得しないと収まらない人の不幸かも知れません。

ところで「新潮45」という雑誌を初めて買いました。原節子が15歳の時に内田吐夢監督が
撮った「生命の冠」という幻の映画がDVDで付録に付いていて、僅か890円と実に値打ちです。
by nakayanh | 2011-02-20 09:45 | 読書